文 : おかの ゆみ / 絵 : 山田 響子
うさぎは、いつもの道でメモを拾った。
「すべての仕事は、○○である」
手帳から一枚、抜け落ちたようなクリーム色の紙。
その上にペンの走り書き。
「○○って、何だろう?」
ねずみに訊いてみた。
「何だと思う?」
「すべての仕事は、ガマンだよ。来る日も来る日もガマンだよ。暑い日も寒い日も、ガマンガマン。それが仕事ってもんだよ。なぜって?そりゃあ、お金のためだよ。つらい仕事もガマンしてやるんだ。いやな上司やお客にも頭を下げてさ。みんな、そうだろ?」
うさぎは、「そうかなぁ?」と思った。
トラに訊いてみた。
「すべての仕事は、勝負だよ。競争社会だもの。食うか食われるかだよ。どんなに仲が良くったって、いつ誰が敵になるかわからないんだ。毎日、気が抜けないよ。お前もぼやぼやしてっと、食われちまうぞ!」
「ひえぇっ!怖い怖い。でも、一体、誰と何の競争をしてるんだろう?」
カラスに訊いてみた。
「すべての仕事は、遊びだよ。楽しくなくちゃね。わくわくが大好物!仕事はそのついでだよ。遊びだと思えば、何だって楽しくやれるだろ?仲間もいるしさ。あんまりカタく考えることないよ。楽しもうよ!」
「遊び、か・・・。悪くないけど」
ある日、うさぎは、胸に小さなしこりを見つけた。
湖に、紫色のインクが一滴落ちて、静かに広がっていくような、そんな感じがした。
明日、病院へ行こう。
検査をして、先生と話した。
「若年性の・・・」ということだった。
帰り道、ピンクのポップコーンみたいな満開のサルスベリの花の下で、うさぎは立ち止まった。
振り返った足元には、うさぎの影が黒く、ぐっきりと落ちていた。
「今後、すべての仕事は、遺言になるな・・・」
うさぎは、前を向いた。
「何かを作るのも、運ぶのも、売るのも、結局、何かを表現して、大切な誰かに伝えて、届けるっていうことだ。それが、仕事ってものなんじゃないのかなぁ・・・」
そう、ひとりごとを言った。
「少し、急がなくちゃ」
うさぎは、歩き出した。いつもの道だった。
(つづく)
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